※ 各ベータ角における1軌道周回の「平均的な」放熱能力または等価温度を示します。
※ 軌道角 0° は正午(太陽と地球の間)、180° は真夜中(地球の影)のタイミングです。
※ MLI(多層断熱材)で覆われた面が、指定した内部温度の時に「どれくらい宇宙へ熱が逃げるか(または外部から侵入するか)」を示します。
※ 放熱量がマイナスの場合は、外部環境から衛星内部へ熱が「侵入」していることを意味します(ヒートリーク)。
はじめに:人工衛星の熱設計とは
宇宙空間は真空であるため、空気の対流による冷却(扇風機のような効果)が一切使えません。
人工衛星の温度を適切に保つための唯一の方法は、「熱放射(輻射)」です。
このシミュレーターは、低軌道(LEO)を周回し、常に地球の方向を向いている衛星の各面が、
宇宙環境からどれくらいの熱を受け取り、どれくらい熱を宇宙に捨てられるかを計算するものです。
1. 宇宙環境からの3つの熱源
衛星に入力される熱は、主に以下の3種類です。これらが衛星の表面材質によって吸収され、温度上昇をもたらします。
- 太陽光 (Solar): 太陽から直接届く強烈な光。約 1366 W/m² です。
- アルベド (Albedo): 地球が太陽光を反射した光。太陽光の約 30%(アルベド係数 a=0.3)が地球の昼側から照り返してきます。
- 地球赤外放射 (Earth IR): 地球自体が発している熱。約 230 W/m² です。これは昼夜問わず常に一定の熱として入ってきます。
2. 等価環境温度 (Tenv) の計算
等価環境温度とは、「その面が外部から受けている熱の合計を、温度の単位に変換したもの」です。
言い換えると、「衛星が何も熱を発しなかった場合に、最終的に落ち着く温度」(低温側の到達限界温度)のことです。
【計算式】
1. 外部からの吸収熱量の合計 Qin (W/m²)
Qin = (α × 太陽光入熱) + (α × アルベド入熱) + (ε × 地球赤外入熱)
2. 等価環境温度 Tenv (K)
Tenv = ( Qin / (σ × ε) )1/4
※ σ はシュテファン・ボルツマン定数 (5.67 × 10-8)
※ セルシウス温度(℃)にするには、K から 273.15 を引きます。
3. 放熱面(ラジエータ)の放熱量 (Qout)
内部機器の熱を捨てるための「放熱面」における計算です。「指定した面積 A」「指定した衛星温度 Trad」において、何ワットの熱を捨てられるかが放熱量です。
【計算式】
Qout = ε × σ × A × (Trad4 - Tenv4)
等価環境温度 Tenv が、衛星温度 Trad よりも高いと、熱は捨てられず逆に外部から入ってきてしまいます(Qout がマイナスになる)。そのため放熱面には、α が小さく ε が大きい(例:白塗装 α=0.1, ε=0.9)材料が選ばれます。
4. 多層断熱材(MLI)の熱計算
MLIは、薄いアルミ蒸着フィルムなどを何枚も重ねた断熱材です。外部の過酷な熱環境から機器を守り、同時に内部の熱が宇宙へ逃げるのを防ぎます。
MLIの計算では、「宇宙空間とやり取りする最外層の特性(αout, εout)」と、「MLI全体の断熱性能を示す有効放射率(εeff)」の2つを分けて考えます。
【計算式】
1. MLI表面の等価環境温度 Tenv (K) ※最外層フィルムの特性を使用
Tenv = ( Qin / (σ × εout) )1/4
2. MLIを通した熱漏洩量/放熱量 Qout (W) ※有効放射率を使用
Qout = εeff × σ × A × (Tin4 - Tenv4)
εeff(有効放射率)は非常に小さな値(0.01 〜 0.05程度)になるため、放熱面(ε=0.9等)と比べて、Qout の値が劇的に小さくなる(熱が出入りしにくくなる)ことがシミュレーションから確認できます。